*パラレル
「変わってますね」
「お前さんほどじゃないさ」
「いいえ、貴方ほどでもありません」
酒場で酒を煽りながら、どちらともなく呟く。
「興味があるって理由で海軍を抜けて海賊になる男が何をいう」
「この国のどこにいるかもわからない女性を攫うためだけに、海賊になった貴方が何を言うんですか」
「…船、降ろすぞ」
「降ろせるものなら」
周囲の男達の声にかき消されることもなく、互いの言葉を聞く。
「ったく、どーして俺もお前さんみたいな男を船に乗せたかねぇ」
「利用価値があったから、じゃありませんか」
「…違いない」
「どこへ行くんです、ヒロト」
突然酒瓶を手に立ち上がった、船長でもあり、いまや親友とも悪友とも呼べる人物に声をかける。
「久し振りの陸地で野郎の顔見て酒なんざ飲んでられるか」
「誘ったのは貴方の方じゃありませんか」
「気持ち悪い言い方すんな。これは今回の功労者に対する、船長としての…あれだ。褒章ってやつだ」
「……飲み足りませんね」
「だったらなんでも好きにしろ。俺につけといて構わん」
そう言って、店に入った時に声をかけたと思われる女を手招きで呼び寄せると、そのまま腰を抱き寄せた。
「…酒を飲むんじゃなかったんですか」
「美味い酒に、いい女…最高だろう?朝には戻る」
「わかりました」
「お前も適当に抜いとけよ」
「その辺はご心配なく」
「そーいうこと言うヤツが一番怪しいんだ。うちのヤツラに手、出すなよ」
「そんな趣味があれば、一番に貴方を口説き落としてますよ」
「………お前が言うと、洒落に聞こえん」
「えぇ、嘘は言いません」
周囲のざわめきに反し、二人の間を一瞬の沈黙が訪れた。
その沈黙を破ったのは、指先でグラスの氷を弄っていたキラだった。
「…大切な人以外でも、抱くんですね」
「は?」
「陸にあがると、必ず…じゃないですか」
「なぁ、キラ…お前、人間の三大欲求って知ってるか?」
「食欲、睡眠…そして性欲、ですか?」
「That's Light。そのどれかが欠けても、足りすぎてても…バランスが崩れる」
「………」
腕に抱いていた女に聞こえないようにしているのか、しっかり抱き寄せてから開いている手でヒロトは自分の胸元を指差した。
「一時の快楽と、身体…それと、心は別物だ。俺の全ては、今でもアイツのためにしか動かない。頭っからつま先まで…のもんだ」
「…会ってみたいですね。貴方の大切な人に…」
「ばーか。欲求の塊みたいなお前さんに会わせたら、どうなることか…」
「…では、その心配を取り除くべく、私も今日は買いましょう」
「ははっ、そりゃいい。店一番のいい女を奢ってやるよ」
指を鳴らし、店の女将に声をかけると、そのままヒロトは抱き寄せていた女の耳元へ声を落として二階へ上がった。
その様子を見ながら、キラはぽつりと呟いた。
「…小柄で、柔らかな髪の女性。それが、貴方を動かす原動力…、と呼ばれる女性ですか」
見つけたい
でも、まだ見つからない
幼いあの日、互いだけいればいいと誓い合った彼女は…
今もまだ、この広い国のどこかで…彼を待っている
金色のコルダ大人組のパラレル物…海賊話です。
金やんは船長、吉羅さんは金やんに惚れ込んで海軍辞めて海賊になりました的な?
で、金やんは幼い日、共にいた大事な人を探すために海賊になりました…みたいな。
パイレーツオブカリビアン見て思いついた小話…サルベージしました。
か 可能性…に、続編があります。
2010/09/28